日本人の昆虫観

所長です。

世界の人々の価値観や行動は、暮らしや環境が異なることで大きく違ってきますね。

最近そんなことを考えさせられます。

例えば今の新型コロナ禍でも、世界各国の人々の考え方・行動が様々であることが如実になっており、大変興味深いです。

 

そして、昆虫に対する価値観・考え方も国によって様々です。

なかでも、日本はなかなか面白い昆虫観を持っているのではないかと思っています。

 

日本はカブトムシ、クワガタやスズムシなどを趣味で飼育する文化が広くあります。

ペットショップでは年中ペット用昆虫が販売されています。プロもアマチュアも昆虫に詳しい人の層が厚い。昆虫学はアマチュアが支えている面も大きいでしょう。さらに、大人顔負けの昆虫少年もいます。

夏休みになれば近所のスーパーや百円ショップで虫かご・虫網が売られはじめます。これも昆虫に親しむ文化が私たちの暮らしに根差している証拠でしょう。

 

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(ショッピングモールのカブトムシ小屋)
 

こういった日本人の昆虫好きは、海外では奇異の目で見られています。

国立環境研究所の五箇公一氏は著作「クワガタムシが語る生物多様性集英社)」において、他の国ではクワガタムシをペットにする習慣は全くと言っていいほどない、と述べています。

国際学会での参加者にクワガタをペットにする習慣はあるか聞いたところ、日本人の習慣は理解不能だと笑われたそうです。

 

日本人のこの「子どもから大人まで昆虫を飼育するこころ」はどこから来るものなのでしょう。

少なくとも私は素敵な姿勢だな、と思います。

ですから、国産・外国産問わず、昆虫を飼育(ブリード)するという日本人の行為自体もっと評価されるべきではないかと私は思っています。

もちろん外国の昆虫を増やして野に放つことは現代ではやっていけない行為ですし、昆虫の乱獲や乱獲を助長する昆虫の売買は慎むべきですが、大半はそこが目的ではないでしょう。

昆虫飼育をする愛好家は成虫まで育て上げた後、状態の良い標本にするほか、さらに繁殖させることも多々あります。

要は多くの場合、昆虫を高く売りさばいて終わり、などではないわけです。

 

例えば、外国産の昆虫がその原産地で絶滅危惧になっている場合、その昆虫の繁殖技術は大変重要な知見になるはずです。日本人の誇る昆虫愛好家が昆虫種の保護に貢献するということになります。

これは、批判を浴びることの多い哺乳動物のハンティングとはちょっと異なる行為です。

 

後々の知見である標本として記録するほか、きちんと命をつないでいく。生命の育つプロセスをじっくり見守る。子供だけでなく、大人まで大真面目に。自然に対する謙虚で、真っすぐ向き合う姿勢だと思います。

 

ちなみに先ほどの五箇氏は、同著で日本人はなぜクワガタが好きかを考察しています。

里山という生活様式の中でクワガタムシに愛着をもって共に生きてきたと考えられているようです。

クワガタムシは朽木を食べ、土壌生物の利用可能な有機物や植物に必要な窒素分を供給してくれる昆虫といえます。

里山で多様な生物資源を活用しながらヒトと生きていく一員として、古くからクワガタムシがいたわけです。

 

これは日本人の八百万の神々を信仰する宗教観や、それに根差す(あるいは他の要素を含む)自然観、動物観に通じる面がありそうです。

神が天地万物を創造した、というキリスト教文化圏とは大きく価値観が異なる視点であるように思います。

 

ただ、韓国や中国でも日本のような昆虫をペットとする文化は見られないそうで、宗教観や大きな文化圏のみで説明することは難しい。

 

ここら辺はどのように説明したらよいのか。常々興味深くおもっています。

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(虫塚。殺した後、供養碑を建てるのも日本人ならでは。)